2012-07

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

新刊サンプル1

「それは恋じゃねえのか」(サンプル1)


「――青峰」
前で、火神が名を呟くのが聞こえた。
それが、まるで相手にも聞こえたかのように、チームの選手らがやや寂れた繁華街に向かっていくのに反し、青峰だけがその場に留まる。主将の今吉が、何か一言二言声をかけたようだったが、青峰が動く気がないと悟ると、『あんまり遅れんなや』とだけ言い残し、メンバーを連れて歩き出した。
そんなチームメイトには構わず、青峰が道路脇のガードレールをひらりと飛び越え、砂浜へと降り立つ。スポーツバッグを肩へと掛け直すと、砂を踏みしめるように大股で歩き出した。
「あれ?」
「おいおい、なんか、こっち来んぜ」
「何ビビッてんだよ、つっちー」
「いやコガ、別にビビってねえよっ、ちょっとだけしか」
「ビビってんじゃん」
「微々ビビる…。今のは、本当にちょっとだけビビってるという…」
「伊月、説明のいるダジャレはいいっつーの」
言っている間にも、青峰が目前に近づいてくる。が、先頭の日向や伊月らには挨拶もなく、真直ぐに最後尾にいる黒子に向かった。
黒子の顔が、きっと引き締まる。
青峰と対峙するのは、インターハイ予選の決勝リーグで大敗して以来だ。
お前のバスケじゃ勝てねえよと冷たく蔑まれ、文字通りゲームも精神的にも叩きのめされた。
その後、残る2戦も惜敗を記し、誠凛高校に入ってから初めての苦渋を味わった。火神とも一時溝のような距離が出来、心身ともにかなりつらい日々を送った。
だが、それももう乗り越えた。そのおかげで、火神とも、以前よりさらに強い絆が出来たと思う。
だから、今なら真直ぐに向き合える。
黒子が睨むように青峰を見上げた。
「よう、テツ」
「おい」
接近した青峰の前に、火神が立ちはだかる。が、青峰はあっさりとそれを無視し、かわすように前進した。
「テツ」
「…どうも」
「んだよ、シカトすんな、テメエ!」
「うるせえ。テメーに挨拶してやる義理なんざ、ねぇっての」
一瞥さえくれずに火神に返すと、青峰が黒子の前に立つ。黒子が、目前に来た長身を見上げた。また一段と迫力が増した気がする。
「青峰君」
「手出せ」
突然の言葉に咄嗟に意味を計りかねて、黒子の眉間がえっ?といぶかしむように寄った。
「何ですか?」
「これ、お前んだろ?」
差し出されたものに、黒子が、あっ…と声を上げる。思わず両手を開いて、それを受け取った。
「―これ」
「何だ。失くしたことにも気づいてなかったのかよ。さつきが泣くぜ」
「…いえ。探してました。でも、てっきり家で落としてきてしまったのかと」
「バス停のベンチに引っ掛かってたぜ。紐のとこ引っ掛けてちぎれちまったんだろ」
『必勝』と縫われた、手づくりの招き猫のマスコット。
桃井の手作りのそれは、まだ帝光中の2年の時に、新しくスタメン入りした黄瀬も含め、キセキの5人と黒子に手渡されたものだ。
なぜ招き猫なのかは忘れたが、たぶん当時の緑間の必勝アイテムだったのだろう。
「あ。直してくれたんですか?」
「つーほどでもねーけどな。紐んとこ結び直しただけだ。短くなっちまったな」
「いえ、いいです。ありがとうございます」
いかにも無器用な結び目に、黒子がやや表情を解く。その微妙な変化に気付いて、青峰が目を細めた。
「お前、まだ持ってたんだな」
「…大事な思い出ですから」
「思い出、か」
「あ。桃井さんは? 一緒じゃないんですか?」
これを黒子が落としていたと知ったら、桃井が大騒ぎをするはずだ。
「さつきは、荷物やら何やらがあるからってよ、家の車で遅れて来るらしい」
「そうですか」
応えて、黒子がちらりと皆を見る。その場で足踏みをしつつ待ってくれているチームメイトと、それから火神を見、青峰に丁寧に頭を下げた。
「じゃあ、行きます。わざわざすみませんでした」
「…おう」
俯くと同時にぽたぽたと砂に落ちる大量の汗に、青峰がおいおいと肩を竦める。
「相変わらず走んの苦手だな、テツ。すげー汗」
呆れたように言って、さんざん汗を吸って色の変わっている首のタオルを見ると、待ってろとスポーツバッグを開ける。そして、自分のタオルを取り出し、黒子の頭の被せると、がしがしと乱暴に拭き始めた。
「わ、青峰君、いたいです、いたい」
「うるせー、拭いてやってんだろ、文句言うな」
「でも、わっ、ちょっ、力抜いてください、頭、もげます」
「もげるか」
そんなヤワかよテメーが!と、かはっと笑う青峰に、黒子がはっとしたようにタオルの隙間から青峰を見上げる。頭の上に乗った掌の重さに、不意に瞳を細めた。懐かしいやりとり。
かつて、2人はこんな風だった。かつて帝光中で、光と影コンビと呼ばれていた頃は。
「テツ…」
「青峰君?」
「いや。何でもねえ」
顔を上げた黒子の頭からサッと手を引いて、青峰が視線を逸らした。らしくない表情に、黒子がその横顔を凝視する。それをなぜかバツが悪そうにちらりと見ると、黒子の頭からタオルを取り去り、青峰はじゃあなと踵を返した。
「あとで水分補給もきっちりしとけよ。ヘバんぞ」
「…はい」
頷く黒子に背を向け、挑むように睨んでくる火神の視線に気付くと、青峰が真っ向から睨み返す。
「あちぃんだよ、テメエは。睨むこたぁねーだろ」
「うるせえ。用が済んだらとっと行けよ。これ以上、練習のジャマすんな」
「言われなくてもそうするっての。テメエの暑苦しい面、いつまでも見てたかねぇからな」
「お互い様だ」




関連記事
スポンサーサイト

新刊サンプル2


「それは恋じゃねえのか」(サンプル2)



「――2号? どうしてここに」

「お?」
「あぁ? おい、今、テツの声がしなかったか」
「ああ、確かに聞こえた。頭の上から」
「…頭の上?」
顔を見合わせ、火神と青峰が2人同時に頭上を見上げ、茫然となる。思わず名を呼んだのも、2人同時だった。
「黒子?」
「テツ?」
ハモる声に、大木の枝に掴まったまま、気まずそうな声が返される。
「…どうも」
「―どうも、じゃねえ。何やってんだよ、テメエ」
心配しすぎて、ついドスの効いた声になってしまう火神に、いつもの飄飄とした口調で黒子が答える。
「木に登ってます」
「見りゃわかるわ! なんでそこにいんだって聞いてんだよ!」
火神に怒鳴られ、ちょっとむっとしながら黒子がぼそぼそと現状を説明する。
「小猫が木の上で降りられなくなって、にゃーにゃー鳴いてたんです。それで、僕が救出に向かったと、そういうわけです」
「で。猫はどうしたよ?」
「僕がここまで登ってきたら、どうやらびっくりしたみたいで、無事飛び降りました。めでたしめでたしです」
「いや、めでたしじゃねえだろ! んで、今度はお前が降りられなくなったって、そういうワケか」
「…別に。降りようと思えば、降りられます。降りられないわけじゃないです」
「嘘つけ」
意地張りやがって、と口の中で毒づいて、火神が深々と溜息をつく。そして、待ってろとばかりに木の幹へと手を掛けた。
「何、やってるんですか」
「俺が木登りが得意だってとこを、お前に見せてやろーと思ってよ」
「…別にいいです、遠慮します」
「はあ? 黒子、テメエなぁ…!」
「火神君まで登ってきたら、枝が折れるじゃないですか」
「折れねえよ」
「折れます、瞬殺です」
「お前な、人がせっかく…!」
「―あーあ、ったく面倒くせえ」
言い合う火神と黒子に痺れを切らしたように、青峰が声を荒げた。このままじゃ、いつまでたっても埒が開かない。
「飛び降りろ、テツ」
「え…?」
唐突な言葉に、黒子の目が丸くなる。まさか本気ですかと、しげしげと青峰を見た。
実は、これまでにも何度か飛び降りようと試みたのだが、やめた。さすがに跳ぶには躊躇する高さなのだ。万一うまく着地出来たとして、それでも良くて軽い捻挫は免れない。その程度には、自分の運動神経に逆の意味で自信があった。が、青峰の提案は、そういうことではなかったらしい。
「その方がてっとり早いだろ。オラ、受け止めてやるからよ」
言って、木の下で両腕を広げる青峰に、火神がぎょっとした顔になる。黒子はちょっと困った顔で、青峰の逞しい腕をじっと見下ろした。
「…ですが」
「このバカが木に登ったところで、2人分の重みで枝が折れりゃ結果は同じだろーが」
「なるほど。火神くん、やっぱりバカですね」
「そこ納得すっとこかよ、黒子っ! つか、やっぱりとか、さっきから色々ヒドくねえか、お前」
怒ってるんだから当然です、とばかりツンとそっぽを向く黒子に、こんなテツの顔もはじめて見るなと青峰が眇目する。
「おら、テツ。来いよ」
「いえ、でも。それは困ります」
「はぁ?」
「お気持ちは、大変有り難いのですが」
「ぁああ!? 何だよ、テメエ」
「青峰君は桐皇の大事なエースです。そんな人に、もし僕を受け止めてもらって怪我でもされては、責任問題です」
「テメーの重さごときで、誰が怪我なんかすっかよ。おら、さっさ飛び降りろ」
「いいえ。そういうわけにはいきません」
きっぱりと言う黒子に、青峰がやや苛立つ。
「ったく、相変わらず強情だな」
苦々しい顔で、じゃあどうすんだと言う青峰に、黒子がちらりと火神を見た。
「わかりました。火神君で我慢します」
「はぁ!? 何だよ、その言い草は…! つか、俺は怪我してもいいのか!」
「火神君なら大丈夫です。バカは風邪をひかないって、昔からいいますから」
「風邪と怪我はちげーだろが!」
「嫌ならいいですが」
「ぁあ!? ったく…いちいちナマイキなんだよ。嫌だなんて誰が言ったよ」
ぶつぶつ言って、やや面映そうにするものの、ほらよと案外あっさりと木の下で腕を広げる火神に、黒子が存外に驚いたような顔になる。
「ったく。手間かけさせやがって。―ほら」
「いいんですか」
「お前が、俺につったんだろうが!」
「はい。火神君でいいです」
「で、って何だよ。訂正しろバカ」
ムッと見上げて怒られて、それでもなぜか嬉しげに目を細め、黒子が言った。
「……火神君が、いいです」
照れたように、そうかよと返して、来いと火神が腕を差し出す。
「ん」
「…行きますよ」
「黒子、来い」
「はい」
答えるなり、黒子が枝を抱いたままくるりと身体を反転させ、枝にぶらさがるようにして手を離す。身体を丸くして、ふわりと落下した。

関連記事

新刊サンプル3

「それは恋じゃねえのか」(サンプル3)


合宿最終日は、近くの神社の境内で夏祭りが行われるとのことで、『まあ最後に羽を伸ばさせてあげるのもアリっかな~?』とのリコの計らいで、午後から民宿を出発する時刻までは各自自由行動が許可された。
とはいえ、羽を伸ばすどころか、いっそその羽をもぎ取られるんじゃないかと恐怖するほど、最後の仕上げの練習はキツかったけれど。
「うわー、すごい人ですね」
「へえ、えらく賑わってんだな」
「ここいらで合宿してる学生が、一気に押し寄せたカンジだなー」
「おおっ、浴衣だあ! いいねえ、夏祭りって萌えるな! なっ水戸部」
「…」
「えーマジ! そっか水戸部、浴衣モエかあ、わかるわかるその気持ち!」
「なんで水戸部の言ってることがわかんのか、俺にゃ、そっちのがさっぱりわかんねえよ、コガ」
「んなこと言ってないで、つっちー、早く来いよぉ、はぐれるぞー」
「うぉーい」
人込みの中を行く2年組についていきながら、延々と連なる出店の数に、火神がきょろきょろしつつ目を輝かす。
「おっ、唐揚げうまそう! 牛串もあるじゃねえか!」
「嬉しそうですね」 
「おう、うまそうなモンいっぱいでテンション上がるぜ」
言いながら、あっちの店こっちの店で食べ物を漁る火神に、それを持たされながら黒子がやれやれと溜息をつく。
「食べ過ぎですよ、火神君」
「何言ってんだ、まだ序の口だろうが」
「火神、こっちー。射的あるぜ、やろうやろう。うわ、すでに両手いっぱい食べ物持ってる!」
「お? 射的か」
「出来るんですか?」
「んなもん誰でも出来るっつーの!」
持ってろ。とさらに黒子の手に食べ物を押しつけ、火神が福田に手渡された銃で、店に並べられた景品に狙いを定める。そして、次々と狙い通りに景品を撃ち落としていく火神に、降旗たちから歓声を上がった。
「おおっ、すげえ!」
「うまいなあ、火神」
「百発百中ですね」
「どんなもんだっての」
「慣れてますよね。アメリカで本物撃ってたんですか?」
「ぁあ? 真面目な顔でとんでもねえこと言うな、んなワケねーだろ!」
「そうなんですか?」
「あったり前だろ! つか、黒子てめえ、俺のポテト勝手に食うな!」
「こんなに持たせるからですよ。――あ」
「ん。どした?」
ふいに雑貨の店の前で、黒子が何かを見つけたように立ち止まる。同じく立ち止まった火神を見上げ、黒子が大量に引っ掛かっているキーホルダーの中の一つを指差した。
「火神君。これ」
「ん?」
「これ、一緒に買いませんか?」
「バスケットボールのキーホルダーか。へえ、いいじゃねえか」
「じゃあ、お揃いで」
「…おう」
はにかむような微笑と上目使いで見られ、火神が照れ臭そうにあさっての方向を見ながら、同じものを指に取る。
「うおお、お揃いッスか! ずるいなあ、火神っち! オレも買おうかなー」
「黄瀬くん…!?」
「黄瀬!? なんでここに!?」
いきなり背後に現れた、見るからに目立つ派手な男に、2人が同時に驚いたような声を上げる。
「いやー、奇遇ッスねえ」
「海常もこのへんで合宿だったのか?」
「えー、まあそんなカンジ?ッス」
「嘘をつくな、黄瀬。お前は勝手に混ざってきただけなのだよ!」
「うわ、緑間っち!」
「秀徳も来てんのか!」
「何を言っている! 昨日から、誠凛と一緒の民宿に泊まっているのだよ!」
「あー、そうだっけ」
「そういえば」
洗面所で会ったような、と火神と黒子が思い出す。
「お前たち…! いったいどこまで不義理なのだよ…!」
「じゃあ、緑間君が黄瀬君を呼んだんですか?」
「そんな訳ないのだよ。誰がこんなバカを呼ぶものか。こいつが勝手に俺の携帯からメールしたのだよ!」
こいつと指差され、緑間の隣から高尾がひょいと顔を出す。
「だってメンバー豪華な方が楽しいじゃんか、真ちゃんも! なんせ桐皇まで来てるっつうんだからよ」
「こんなバカって、ひどいッス!」
「別に俺は会いたくなどないのだよ」
「まーまー、本当は嬉しいくせに」
「嬉しくなどない、いつもいい加減なことを言うな、高尾!」
言い合う緑間と高尾を見比べ、黒子がしみじみと言う。
「相変わらず、仲良いですね。緑間君と高尾君は」
「そーだろ。俺たちラブラブだもんな、真ちゃん!」
「なっ…! 気持ち悪いことを言うな!!」
「照れんなって。けど、そっちだって相変わらずらぶらぶじゃん、誠凛1年コンビ」
「えっ!マジでラブラブなんスか、黒子っち!?」
「まあ、そうです」
「ばっ…普通に認めんなっ!」
「ええええぇ、黒子っちと火神っち、いつのまにそんなカンケーになったんスか!? マジ有り得ないっスよ!」
「何騒いでんだ、相変わらずうるせーぞ。黄瀬」
さらに背後から近づいてきた色黒・長身の男が、そこに混ざった。
「うおお、青峰っちー! 久し振りっス! 相変わらずは余計ッス!」
「…どうも。昨夜はすみませんでした、青峰君」
「よお、テツ。あれから、こっぴどくシメられたかよ?」
「はい。絞められました。それは、もう」
「真顔て返すな、こえーだろ! って、何しに来てんだ青峰。黄瀬同様マジで暇なのか、テメー」
「ちょ暇って! そこでオレを出すのやめてほしいっス、火神っち! 誠凛も秀徳も桐皇までここで合宿って聞いたから、わざわざ慰労に来たんっスよ!?」
「手ぶらでか?」
「ひっどいスねえ、青峰っち! そりゃー、えっと何もないッスけど、代わりに俺のこのありったけの愛をみんなに贈るっス!!」
「行くぜ、黒子」
「行きましょう、火神君」
「じゃあな、黄瀬」
「行くぞ、高尾。とっとと帰って練習するのだよ」
「今来たばっかじゃん、真ちゃん。もっと遊ぼうぜ」
「ええええぇえ、ちょ、みんな、ヒドイっスよ~~!」


関連記事
このページのトップへ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。