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新刊サンプル1

「それは恋じゃねえのか」(サンプル1)


「――青峰」
前で、火神が名を呟くのが聞こえた。
それが、まるで相手にも聞こえたかのように、チームの選手らがやや寂れた繁華街に向かっていくのに反し、青峰だけがその場に留まる。主将の今吉が、何か一言二言声をかけたようだったが、青峰が動く気がないと悟ると、『あんまり遅れんなや』とだけ言い残し、メンバーを連れて歩き出した。
そんなチームメイトには構わず、青峰が道路脇のガードレールをひらりと飛び越え、砂浜へと降り立つ。スポーツバッグを肩へと掛け直すと、砂を踏みしめるように大股で歩き出した。
「あれ?」
「おいおい、なんか、こっち来んぜ」
「何ビビッてんだよ、つっちー」
「いやコガ、別にビビってねえよっ、ちょっとだけしか」
「ビビってんじゃん」
「微々ビビる…。今のは、本当にちょっとだけビビってるという…」
「伊月、説明のいるダジャレはいいっつーの」
言っている間にも、青峰が目前に近づいてくる。が、先頭の日向や伊月らには挨拶もなく、真直ぐに最後尾にいる黒子に向かった。
黒子の顔が、きっと引き締まる。
青峰と対峙するのは、インターハイ予選の決勝リーグで大敗して以来だ。
お前のバスケじゃ勝てねえよと冷たく蔑まれ、文字通りゲームも精神的にも叩きのめされた。
その後、残る2戦も惜敗を記し、誠凛高校に入ってから初めての苦渋を味わった。火神とも一時溝のような距離が出来、心身ともにかなりつらい日々を送った。
だが、それももう乗り越えた。そのおかげで、火神とも、以前よりさらに強い絆が出来たと思う。
だから、今なら真直ぐに向き合える。
黒子が睨むように青峰を見上げた。
「よう、テツ」
「おい」
接近した青峰の前に、火神が立ちはだかる。が、青峰はあっさりとそれを無視し、かわすように前進した。
「テツ」
「…どうも」
「んだよ、シカトすんな、テメエ!」
「うるせえ。テメーに挨拶してやる義理なんざ、ねぇっての」
一瞥さえくれずに火神に返すと、青峰が黒子の前に立つ。黒子が、目前に来た長身を見上げた。また一段と迫力が増した気がする。
「青峰君」
「手出せ」
突然の言葉に咄嗟に意味を計りかねて、黒子の眉間がえっ?といぶかしむように寄った。
「何ですか?」
「これ、お前んだろ?」
差し出されたものに、黒子が、あっ…と声を上げる。思わず両手を開いて、それを受け取った。
「―これ」
「何だ。失くしたことにも気づいてなかったのかよ。さつきが泣くぜ」
「…いえ。探してました。でも、てっきり家で落としてきてしまったのかと」
「バス停のベンチに引っ掛かってたぜ。紐のとこ引っ掛けてちぎれちまったんだろ」
『必勝』と縫われた、手づくりの招き猫のマスコット。
桃井の手作りのそれは、まだ帝光中の2年の時に、新しくスタメン入りした黄瀬も含め、キセキの5人と黒子に手渡されたものだ。
なぜ招き猫なのかは忘れたが、たぶん当時の緑間の必勝アイテムだったのだろう。
「あ。直してくれたんですか?」
「つーほどでもねーけどな。紐んとこ結び直しただけだ。短くなっちまったな」
「いえ、いいです。ありがとうございます」
いかにも無器用な結び目に、黒子がやや表情を解く。その微妙な変化に気付いて、青峰が目を細めた。
「お前、まだ持ってたんだな」
「…大事な思い出ですから」
「思い出、か」
「あ。桃井さんは? 一緒じゃないんですか?」
これを黒子が落としていたと知ったら、桃井が大騒ぎをするはずだ。
「さつきは、荷物やら何やらがあるからってよ、家の車で遅れて来るらしい」
「そうですか」
応えて、黒子がちらりと皆を見る。その場で足踏みをしつつ待ってくれているチームメイトと、それから火神を見、青峰に丁寧に頭を下げた。
「じゃあ、行きます。わざわざすみませんでした」
「…おう」
俯くと同時にぽたぽたと砂に落ちる大量の汗に、青峰がおいおいと肩を竦める。
「相変わらず走んの苦手だな、テツ。すげー汗」
呆れたように言って、さんざん汗を吸って色の変わっている首のタオルを見ると、待ってろとスポーツバッグを開ける。そして、自分のタオルを取り出し、黒子の頭の被せると、がしがしと乱暴に拭き始めた。
「わ、青峰君、いたいです、いたい」
「うるせー、拭いてやってんだろ、文句言うな」
「でも、わっ、ちょっ、力抜いてください、頭、もげます」
「もげるか」
そんなヤワかよテメーが!と、かはっと笑う青峰に、黒子がはっとしたようにタオルの隙間から青峰を見上げる。頭の上に乗った掌の重さに、不意に瞳を細めた。懐かしいやりとり。
かつて、2人はこんな風だった。かつて帝光中で、光と影コンビと呼ばれていた頃は。
「テツ…」
「青峰君?」
「いや。何でもねえ」
顔を上げた黒子の頭からサッと手を引いて、青峰が視線を逸らした。らしくない表情に、黒子がその横顔を凝視する。それをなぜかバツが悪そうにちらりと見ると、黒子の頭からタオルを取り去り、青峰はじゃあなと踵を返した。
「あとで水分補給もきっちりしとけよ。ヘバんぞ」
「…はい」
頷く黒子に背を向け、挑むように睨んでくる火神の視線に気付くと、青峰が真っ向から睨み返す。
「あちぃんだよ、テメエは。睨むこたぁねーだろ」
「うるせえ。用が済んだらとっと行けよ。これ以上、練習のジャマすんな」
「言われなくてもそうするっての。テメエの暑苦しい面、いつまでも見てたかねぇからな」
「お互い様だ」




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