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「不感症なんです」(火黒)



部活帰りのマジバで、13個めのハンバーガーにまさにかじりつこうとした、その瞬間。
問題の発言は成された。

「…あ?」

口をあんぐり開けたまま、火神が視線だけを黒子に移す。
あまりの衝撃の発言に固まる火神に、どうやら聞いていなかったのかと勘違いしたらしい黒子が重ねて言った。

「僕、不感症なんです」

いや、聞いてねえし、そんなこと。
しかもニ度も言うこっちゃねえだろ、こんな店の中でと思いながら、火神がぴくりと片眉を跳ね上げる。
つーか。おい、待て。
いきなり、そりゃあ何だ。
衝撃のカミングアウトに、思わず頭の中が真っ白になる。
とりあえず落ち着け俺と、ぐいっと一気に飲んだコーラは、続いた黒子の言葉に思いきり噴き出した。


「青峰君に言われました」


「…ぁあ!? ゲホッ、ゴホッ」
「大丈夫ですか、火神君。制服がコーラでびしょびしょです」
「知ってるよ! つーか、なに冷静に言ってんだ、誰のせいだっての!!」
「…僕ですか?」
きょとんとしながらもタオルを投げて寄越す黒子を、当たり前だろ!と睨みながら、こぼしたコーラを火神がごしごしと拭き取る。
やれやれ。まったく。何だってこんな目に。
ぜってえ染みになるなと嘆息しながら、火神が思う。
まあ、そもそもこいつと出逢ってから、驚かされることばかりの連続だが。
いや、しかし今度のはちょっと毛色が違う。
(不感症だって? しかも、青峰のヤローに言われただって? ―つうことは、つまりその)
『不感症』というワードの意味するところを、ふと考える。
いや、考えるまでもなく、脳が勝手に動いて勝手な想像を次々と巡らせてしまう。男子高校生の脳は、こういう類の妄想にはやたらと活発に働くものなのだ。


まさか、こいつ。
青峰と。


脳内を過ぎったとんでもないエロシーンに、カッと赤くなる顔を火神が隠すように掌で覆ってテーブルに肘をつく。
いやいやいや、待て。有り得ないだろ。
女子ならともかく、こいつは男で、あいつも男で。
や、アメリカではあった。当然あった。だが、ここは日本だ。まさかそこまで進んでねえだろう。
たぶん、無い…筈だ。
とはいえ、思い当たる節はないでもない、いや、ないと言えない事もないというか。〈どっちだ〉
最初に会った時から、青峰の黒子に対する固執ぶりにはやや疑問を抱いていたのだ。
桐皇のバスケ部のマネージャーである桃井さつきが偵察がてら黒子に会いに来た時も、わざわざ単身で火神に挑みにやってきた。
その時の言いざまが、火神にはどうにも気にくわなかった。
完全上から目線なのにもイラっとしたが。
それ以上に。

黒子の、
――昔の『光』、だと。

正直あの時は、例えるならば、今付き合ってる女の昔の男がいきなり現れて、『テメエじゃあの女に似合わねえよ、つり合わねぇ』と水をさされた。そんな、最悪の気分だった。
『可哀想にな、テツも』
うるせえよ、畜生。
そっちこそ、テメエの勝手で黒子の手を離したくせによ。
今更現れて何抜かしてやがる。
その上、不感症だと?
上等じゃねえか。そんなのテメエのテクに問題があっただけってことだろ。
ろくに感じさせられもしねえくせに。
ざけんな、クソったれ!

「…火神君?」

バニラシェイクのストローを咥えながら、向かい合った前の席で不思議そうに黒子が見つめる。
「どうしたんですか。さっきから、ずっと黙ったままです」
「出るぞ」
「え。」
目前で1人百面相をしていたかと思えば、いきなり不機嫌な顔で席を立った火神に、首を傾げるように黒子がシェイクを片手に立ち上がる。
店を出て、行き交う車のライトに眩しげに手で遮り、背に追いついてきた黒子をちらりと見遣り、火神がゆっくりと歩き出す。
とはいえ、コンパスの違う2人は一緒に歩いていても、いつもどうしたって黒子の方が遅れがちになる。
後ろにいるだろうと思い、話しながら歩いていたら、振り返ったらいつのまにか姿が無かった、なんてこともしばしばだ。
もっとも、そんなことにも最近では随分と慣れた。
共にいる時間は、伊達ではないのだ。
クラスも一緒、席も前後、休み時間も部活も一緒で、部活後のマジバもこの頃は偶然ではなく、一緒に行くようになった。
〈1人で行っても気が付けば前にいるのだ。だったら、一緒に行った方が驚く手間が省けて良い〉
―それでも、中学の3年間にはまだまだ遠く及ばないが。
(…何を苛立ってんだ、俺は)
あれこれ悶々と考えても、埒が開かないのはわかっている。
黒子と青峰との間には、未だに火神が越えられない『何か』がある。潜んでいる。
不感症の件は、さておいても、だ。
「火神君。赤信号です」
「あぁ」
横断歩道を渡ろうとして、黒子に言われて目前の信号に気付いた。
そんな火神の後ろに立ち、大きな背を黒子が見上げる。
さっきから、気もそぞろ。かえってくる返事も生返事ばかりだ。
いったいどうしたんだろう。
首を傾げ、ふいに目の前にある火神の、脇のあたりをちらりと見た。
―手が動いたのは、ほぼ反射的な出来心だった。

「うぁおう!」

信号待ちをしているところで、後ろから突然両脇にえいと手を突っ込まれ、火神が思わず裏返った奇声を上げる。その原因が黒子と知るや、眉を吊り上げて猛然と振り返った。
「黒子!! テメェいきなり何しやがるっ! 車道に飛び出そうになっちまったじゃねえか、殺す気か!!」
「…あー。すみません」
「おい、なんだそのすっとぼけたリアクションは!」
「あ、青です」
変わった信号をのんびりと指差され、火神が仕方なく人の流れとともに歩き出す。
「けど。やっぱり、くすぐったいんですね。火神君でも」
「は? 火神君でもとはどういう意味だ」
「火神君も、てっきり不感症だと思っていたので」
「不っ…! テメエな、こんな大通りのど真ん中で何言って…!」
「違うんですね」
「いやお前、人を不感症呼ばわりしといて何で残念そうなんだよ! つーか、待て」
横断歩道を渡り切ったところで、火神がふと気付いて足を止めた。邪魔にならないように、黒子を連れて公園の入り口まで移動する。


おい、ちょっと待て。
不感症って。

…そっちの意味か?



…そういう意味、じゃねえのか?



そういえば、あまりの発言にすっかり話の前後を見失っていたが、よくよく考えてみれば、確かそんな話をしていたような気がする。
今日の部活後。
いったい何をやったか言ったかは知らないが、先輩の小金井が同じく2年の日向らに捕まって、『くすぐりの刑』を受けていた。
涙を流してげたげた笑う小金井の姿を思い出して、シェイクを飲みつつ、黒子がぼそりと言ったのだ。
「脇って、普通くすぐったいものなんですか?」
「は? そうだろ普通」
何気なく火神が答えた、そうだ、確かその直後だ。
黒子がしみじみ呟いたのは。
まるで重大な悩みを告白するが如く。
僕、不感症なんです、と――。
そして、その後に飛び出してきた青峰という名のせいで、すっかり考えが暴走してしまった。
つまりは、そういうことだ。
火神が、はあ…と、安堵のような疲れたような溜息を落とす。
(…まあ。どうでもいいけどよ)


紛らわしいだろ。
その表現は。


「おい。ちょっと腕上げてみろ」
「こうですか?」
言われるままに素直に万歳をする黒子を見下ろし、火神が疑い深く両の脇へと手を伸ばした。
試しに、実際くすぐってみる。

…なるほど。
おもしろいほど、無反応だ。

「まさにこれです」
「まあ…確かにな」
「青峰君にもつまらないと言われました」
「くすぐり甲斐がないってか?」
「はい」
あっそ。
そりゃそうだろうよ。
思いながら、くるりと向きを変え、火神がとっとと歩き出す。
何だかむしょうに馬鹿馬鹿しくなってきた。
中学時代の青峰が黒子をくすぐってみて、『んだよテツ、ちっとはくすぐったがれよ、つまんねーだろ』などと仲睦まじくやってた姿を想像して、ますます心底むっとする。
どうも他のキセキの面々とは違い、青峰に対してだけはバスケ以外でも気に食わないと思う所が多々あるが。
余程相性が悪いのだろう。
(…あのヤロー、考えただけでムカつくぜ。黒子にいちいちちょっかいかけやがってよ…!)
何に苛立っているのかはまったく無自覚に、火神が心中で毒付く。
そして駅に向かってさらに歩くスピードを上げかけ、唐突に立ち止まった。
降旗に、黒子に言っといてと伝言を頼まれていたことを、今になって思い出したのだ。
「―あ。やべぇ」
「どうしたんですか、火神君」
いつのまにか隣に来ていた黒子に、相変わらず”うおっ”と驚きながらも、火神が悪りぃ忘れてたと前置きする。
「あー。降旗のやつがよ。明日の放課後、図書委…」
言いかけたところで、派手なクラクションを鳴らし、数台連なった車が横を通り過ぎていく。
「え」
「いや、だからよ。図書委員会があるから」
が、再びパッパーーッ!とクラクションが鳴り響き、さらに数台の車がカーステレオから流れるロックを最大ボリュームにして走り去っていく。
「あぁ、くそ、うるせえ!」
「聞こえません、火神君。もっと大きな声で言ってください」
「だーかーら!」
次いで、前の車停まりなさいと声を上げながら、パトカー数台が赤いフラッシャーを廻して通り過ぎる。
仕方ねえなと火神が上体を倒し、身長差のある黒子に耳元へと唇を近づけた。
「…っ」
「…は?」
大きな瞳をさらに見開いて、いきなりぱっと耳を押さえた黒子に、それを見下ろして火神もまた驚いた顔になる。
サイレンの音が遠ざかっていく。
それを聞きながら、火神がふいににやりと嗤った。
絵に描いたような、人の悪い笑みだ。
指で、ちょいちょいと黒子を招く。
「黒子、ちょい来い」
「そんな2号みたいに呼ばないでください」
「もうちょい、こっち」
「な、何ですか。ちょ…っ」
先程と同じように、火神が黒子の耳元へと唇を寄せる。
「…ッ」
「へえー」
反応はさっき以上に顕著だった。
黒子が慌てて耳を押さえる。
ますます火神の顔が愉しげになった。まるで悪戯を思いついた子供のようだ。
「もっかい」
「嫌です。ちょ、離してください火神君」
耳をガードしようとする手を無理矢理掴んで引き剥がし、今度はさらに意図的に耳腔めがけて息を吹き込む。びくりと黒子の両肩が跳ねた。
「…っ、か、火神君」
「耳、真っ赤だぜ?」
片腕を掴まれ、睨むように見上げてくる黒子を見下ろし、くすくす笑いながら再び耳元で火神が囁く。


「良かったな、黒子。不感症じゃねえよ、お前」


「…ッ」
びくんと片目を瞑る黒子を引き寄せ、さらに接近する。が、そこまでだった。
あっという間に反撃された。
「どぉわぁあっ!」
隙だらけの脇をくすぐられ、火神が思わず叫んで身を退ける。
「てっめえ…」
「やられっぱなしは性に合いません」
「ああ、そうだよな。そういうヤツだよなお前って」
顔に似合わず、負けず嫌い。
だが。
そういうところも、多分気に入っている。
臨戦体勢を取る黒子に、火神がまるで1on1を挑むかの如く、腰を落とす。口角を愉しげに持ち上げる。
「よーし、行くぜ。黒子」
「どこからでもどうぞ」
派手なはしゃぎ声を上げながら〈主に火神〉、まるで子供のように夜の歩道で戯れる男子高校生2人を、道行く帰宅途中の人々がやれやれと呆れながら、それでも微笑ましげに通り過ぎる。
「黒子っ、テメッ、こんな時までミスディレクション使うな!」
「いやです。火神君相手なら、僕はいつだって本気でいきます」
「言ってくれるじゃねえか」
こんな遊び一つとっても、本気(マジ)モードとは喜ばしい。
素早く手を伸ばし、しなやかな腕を捕まえ引き寄せれば、もう一方の黒子の手が隙をついて伸びてくる。
それも封じてやれとばかり、細い手首を無理矢理掴んで、強引に腕の中に閉じ込めた。
そうして、既に赤くなっているやわらかそうな耳朶に唇を寄せ、かぷりと甘咬みする。
「…ぁ!」
肩が跳ね、今度は微かに可愛いらしい声が漏らされた。
「―感度良好」
「って、何がそんなに嬉しいんですか、バカですかっ」
「うるせえよ」
微かに染まる頬を隠すように俯いて、火神の腕の中でじたばたと黒子が藻掻く。
それを抱き寄せるようにしながら、喜色が湧き起こる胸で、火神が思った。
(ああ、今度会ったら、青峰に教えてやらねえとな―)



こいつ。
ぜんぜん不感症じゃねえぜ?


つってよ。


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