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宣戦布告をどうぞ(火黒)

『誠凛高校、タイムアウトです』


「あぁ、くっそ…!」
頭にタオルを引っ掛け、椅子にどかっと腰を下ろした火神の肩は、苛立ちでいかり上がっていた。
目つきの悪さにも、いつもにも増して磨きがかかっている。
とはいえ、WC都予選ベスト4決定戦第4試合は、木吉の参戦もあって、誠凛の大幅リードのまま進んでいた。
が、にも関わらず、執拗なダブルチームに阻まれて、火神はまったく動けず仕舞いだ。
シュートを放つどころか、ここまでまったくと言っていいほど活躍出来ず。良いとこなしも甚だしい。
『火神君がDFをひきつけてくれてるから、先輩たちが攻めやすくなってチームはリードしてるんです』と、黒子には諭された。
わかっている。確かにその通りだと思う。
(つってもよ、力が有り余ってしようがねえ! その上、あいつのパスも、ちっともこっちに回ってきやしねえし)
マークが外れない以上、当然黒子のパスは火神をまるで素通りするかのように、木吉や日向や伊月に回される。
それが何ともいえず、腹立たしい。
もっと言えば、気にくわない。
だからどうしろと言うものでもないが、火神の苛立ちに拍車をかけていることは事実だ。
「火神ー、相変わらず顔コワイぜ? ま、目つき悪いのは生まれつきだから仕方ないけどな」
木吉の冗談も、今は相手をする気にすらならない。苛立ちは、どうにもおさまりそうにない。
「はあ~……」
溜息というには荒すぎる息をついて上体を倒せば、ふいにその足元に、バスケ選手としてはかなりサイズの小さいバッシュが目に入った。
いつの間にこんなに接近してやがったんだと思いながら、顔を上げる。
「…黒子」
「そこ、いいですか?」
「あ? あぁ…」
問われ、目の前に立つ黒子に火神が頷く。
黒子が火神の隣に腰かけることは、よくあることだ。わざわざ確認されるまでもない。チーム内でも今や1セット扱いだ。
「って、ちょっ、テメっ…!」
が、次の瞬間。火神の口をついて出たのは、突拍子もなく裏返った声だった。
何事かと振り返ったチームの全員が、火神以上の変な叫びを上げて思いきりのけぞる。
「おおい、黒子に火神! おおお前ら、な、何やって…!」
「いやそのキャプテン、俺はその」
大口をあんぐり開けた日向に何やってんだ!!と指差され、火神がいやいやと片手をひらひらさせる。
弁解のつもりらしいが、状況が状況なのでまったく説得力がない。
ひとまず現状から察するに、黒子の言った【そこ】とは、どうやら隣の席のことではなかったらしい。
火神がそれに気がついた時には、黒子の胸の11番は、既に火神の鼻先に迫っていた。
「おい、待て黒子!」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃねえよ! なんでお前、俺の上に坐ってるんだよ!」
「一応、聞きました」
「膝に坐るとか言ってねえし!!」
「そこって言いました」
「さっきは指差さなかっただろ! いやそういう話じゃなくてよ」
怒鳴りかけた言葉が、火神の上に横坐りになった体勢で『ふう…』と吐き出された黒子の嘆息に不意に勢いを無くした。
何だ。様子が変だ。
不機嫌というか、微かに苛立っているように見える横顔。
「…なんだよ、どうしたお前」
さっきは冷静に、火神のイライラを『いい加減にしてください』とにべもなく叱責したくせに。
その青色吐息は何なんだよ、と火神がいぶかしむように眉根を寄せる。
「苛立ってるのは、火神君だけじゃないんです」
どことなく悔しげな目で言われ、火神の眉間の皺がますます深くなる。
「はあ? つか、答えになってねえ」
「火神君にパスが回せません」
「だから、それは」
「それなりに、僕もストレスです」
そういう黒子の顔を、やや見上げる形になって火神が凝視する。表情に現れ難い黒子の真意を探るように、横顔を見つめた。
「だから、何だよ」
「火神君が足りません」
「あぁ?」
「ちょっと補充させてください」
「いや、意味わからねえけど」
「いいんです、勝手に補充します。放置の方向でお願いします」
どういう事だよと問いかけた火神の言葉が、驚愕のあまり、そこで途切れた。
両肩に黒子の手が差し伸べられ、自然と重心が傾いてくる。しがみつかれているような体勢になって、火神が瞠目した。
体育館の天井のライトがやけにチカチカして見える。
「おい…」
密着し過ぎて、黒子の表情はまったく見ることは出来ないが、重なった布越しの胸の下からは、やけに速い心臓の鼓動が伝わってきた。
気のせいか、場内がひどくどよめいているような気がするが、正直なところ、そんなものまったく耳に入ってこない。

それどころじゃねえ。
何だ、これ。
耳の傍で、黒子の微かな息遣いがする。
とくんとくん…と、テンポの速いリズムを刻むのは黒子か、はたまた自分の心臓の音なのか。
ほのかな体臭。上昇した体温。汗ばんだ肌。膝の上にある重み。少し身体を動かすだけで、筋肉の動きがダイレクトに伝わってくる。どきりとした。
(……なんか、こいつ妙に……エロくねえか…?)
耳の後ろから首筋にかけて、汗が一筋伝い流れ落ちてくる。目前のそれを凝視していると、何ともいえず妙な気分になってくる。
だがしかし。
いやいや、待て。
黒子にそんなん感じてる場合か、つか今、試合中だし!
火神が、脳内で自分を戒める。
もっとも、おかげで苛立ちはすっかりどこかに行ってしまった。霧散した。
「…よう」
「なんですか」
「こんなので補充できてるのか?」
「できてます。自分でも不思議です。こうしていると落ち着きます」
「…へえ、そうかよ」
こっちはそれどころじゃねえってのに。
落ちついてる場合かよ。こいつ。
マイペース過ぎるだろ。
が、そう思えば何だか可笑しくもなってくる。
土台、そんなことを考える余裕があるということは、それなりに頭が冷えてきたということなんだろう。
心と身体がほぐれて良い感じのような気がする。後半、行けそうだ。
「おい。つーか黒子。テメェばっかり狡いだろ」
「…火神君?」
「俺にもさせろ」
―補充をよ。
言うが早いか、火神が黒子の背に両腕を回す。薄い背を抱き締め返すように引き寄せれば、微かに黒子の身体がぴくりと揺れた。
構わず、まるで獣のように、高い鼻梁を黒子の首筋へとこすりつける。
「火神君、くすぐったいです」
「うるせえよ」
目前の白い肌に、いっそキスでもしてやろうかと目論むが、今はやめておく。
ただでさえも外野がうるさい。
その上ここにきてやっと、相田リコの三角に釣り上がった目と頭から湯気を出して怒り狂っている姿も目に入った。



『タイムアウト、終了です』


水を差すようなアナウンスが流れ、火神が名残惜しそうに黒子の背から腕を下ろす。
「ちょっとあんたたち、いつまでやってんの! 行くわよ!」
リコの怒号に、黒子が火神の膝をするりと降りる。
「カントク。顔が赤いです」
「うるさいっ、誰のせいだと思ってんの!! これで使いものになんなかったら、あんたたち、すぐ交代させるからね!!」
「うぃっす!」
応え、火神が意気揚々と立ち上がる。長身が黒子の隣に並んだ。いつもの顔で黒子が見上げる。
「行きましょう」
「おう!」
「頭、冷えましたか?」
「…頭はな」
「えっ?」
きょとんとする黒子を見下ろし、誰のせいだよと胸で毒づきながらも、腕をぐるりと廻して火神が口角を持ち上げる。絶好調の時の顔だ。黒子の目がすうっと細められる。小さく微笑んだ。
「そういえば、気付いてました? 桐皇の選手が見に来ています」
会場内の一角を黒子が指差す。桐皇と聞いて、火神の顔色が変わった。
「つまり、今日の試合内容は青峰くんにも伝わるはずです」
青峰、という名に、ますます火神の横顔に凄みが増す。それを頼もしげに黒子が見上げた。

「とゆうわけで。頭が冷えたら、宣戦布告お願いします」

強気な発言に、火神がにやりと笑む。
望むところだ。
「おーし、任せろ、たたきつけてやる…!」
言うが早いか、見覚えのある面々が連なる席を差し、猛然と火神が吠えた。



『いいか、黒子は俺のだからよ!! 青峰なんかにゃ絶対渡さねえぇ!! テメエら全員首洗って待っていやがれ――!!』



「……あ。いえ、その。そういう宣戦布告では……」
若干趣旨が違うような。
というか、後半のがメインのはずが、完全におまけになってるけど。
…ま、いいか。
困ったように黒子が眉を寄せ、火神の腕を引いた。
わかりにくいが、これでも相当照れている。
「火神君。恥ずかしいです」
ぼそりと告げて、先に行きますとコートに走って行く黒子の白い頬が、うっすらと微かに赤らんで口元が緩んでいたのを、監督であるリコは見逃さなかった。
「ったく、あのバカガミ…! 後で思いきりシメてやるから!」
とはいえ。
タイムアウトに入る前と後では、驚くほど火神の顔付きと落ち着きが違う。
あれこそ、エースの顔だ。あれならいける。
終盤もダブルチームで火神の動きを抑えに来るだろうが、火神がそれを突破するのは既に時間の問題だ。リコが確信する。
黒子効果、絶大。
ま。いいか。これはこれで。
チームのためになるなら(なるのか?)いっそ何でも有りだ。
桐皇席でぎりぎりと歯ぎしりをしているであろう巨乳娘を想像して、リコがほくそ笑む。

「よっしゃ黒子。リベンジかますぜ!」
「はい!」
黒子の小さな拳とコツンと拳を合わせると、火神大我は相手チームを睨みつけ、不敵に笑った。




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